理事長挨拶

日本成人先天性心疾患学会理事長挨拶

理事長 赤木禎治

 2024年からの2年間、第3期目の理事長を務めさせていただくことになりました。どうぞよろしくお願いいたします。

 みなさまのおかげで日本成人先天性心疾患学会の会員数は確実に増加し、現在1300名を越す規模に達しました。国内の診療体制構築にあたり大きな目標でありました全国どこでも成人先天性心疾患診療を受けることができるという目標も、2023年4月にすべての都道府県に成人先天性心疾患診療施設を設置することができ、最低限の基盤は確立することになりました。この診療体制の中心となって活動する成人先天性心疾患専門医は2019年の制度開始以降、2度の専門医試験を実施し、2024年4月からは215名の体制で進むことができます。

 しかしながら現実の問題ははるかに急速に進んでいます。特に1980年から90年代に外科手術を受けた中等度から重度の先天性心疾患をもつ患者さんが30~40歳代を迎える時代となり、再介入を必要とする患者さんが急増する可能性があります。私たちはこのような患者さんに正確な診療情報の提供、ドロップアウトしている患者さんには心症状を起こす前に専門施設受診していただく機会を作っていただくことを広く進めていく必要があります。

 心不全、不整脈あるいは肺高血圧に対する新たな薬物療法の導入、経皮的肺動脈弁留置術に代表されるようなカテーテル治療の導入など、大きく進歩した医療を導入し提供する機会も増えてきました。しかしながら重度心不全を合併した先天性心疾患患者に対する心臓移植適応など、取り組むべき課題も明らかになってきました。成人先天性心疾患診療における緩和医療も正面から取り組む必要があります。成人先天性心疾患診療は一部の専門医の活動のみならず一般内科医も含んだ幅広い領域での対応が必要な時代になりました。

 幸いいろいろな分野で新たな協力体制が進んでいます。日本肝臓学会、日本小児循環器学会と協力し「Fontan術後関連肝疾患(FALD)に対する診療の手引き」作成のプログラムを開始しました。日本心エコー図学会と共同で、実地診療に直結する心エコー図の共通化を目的とした「心エコー図プロトコル」の冊子化も完成しました。

 成人先天性心疾患にはエビデンスの乏しい領域が多く残されていますが、言い換えれば新たなエビデンス創出できる領域がたくさん存在する分野でもあります。国内から多くの学術論文が発表されていますが、この流れを大切に国際的な学術活動を展開し続けたいと思います。

 学会会員のみなさまにお手伝いいただいて隔週開催しているACHD NIGHTも新しいテーマが次々登場しています。年3回開催していますAsia Pacific ACHD NIGHTは毎回欧米を含め10か国以上から参加を頂き、国際的な情報交流に寄与しています。これからも会員の皆様からの斬新なアイデアを反映させ、最新の情報をより早く、そしてより多くの方にお届けしたいと思っています。

 本学会に託された使命は、成人先天性心疾患に関する正しい情報を全国の医療従事者に幅広く伝えること、そして何より患者さんが安心して社会生活を送っていただくよう診療体制を構築することです。

 国内における成人先天性心疾患に対する認識が高まっていることを実感する機会が増えてきました。これからも皆さんと一緒に新たな仲間を増やしながら、学会活動を進めていきたいと思います。