生まれつきの心臓病である先天性心疾患は、新生児、乳児期あるいは小児期に見つかることが多く、年齢が進むにつれて初めて見つかることは少なくなります。成人となってから発症する場合もありますが、そういった例は比較的少ないと考えられます。このため、先天性心疾患は、長い間、子でもの病気と見られてきました。しかし、赤ちゃんだった子供が、その多くは15歳、20歳を超えるようになってきます。そうしますと、小児心臓病、川崎病などの慢性の病気の患者さんを、このまま小児科で診ていて良いのか、いつまで小児科にかかるのか、という問題がでてきます。また、大人になるとこどもと違った注意すべき問題がでてくるのではないか?とも考えられます。先天性心疾患患者さんあるいは小児期にすでに心疾患を持っている患者さん(川崎病、心筋症など)は一生慢性疾患としてその病気とつきあっていかなければならないことが少なくありません。生まれつきの心臓病を持ち15歳あるいは18歳を過ぎ成人となった患者を成人先天性心疾患患者と呼びます。心臓外科手術治療の発達、内科治療の進歩によって先天性心疾患の子供の85%は思春期、成人期まで到達する事が可能になってきております。複雑な先天性心疾患の子供も学校に通い社会に出ていくようになってきました。初期に手術をした術後の患者はすでに多くが40歳台に突入しつつあります。先天性心疾患の患者さんの半数以上は大人であるという時代が、目の前にきております。
大部分の先天性心臓病の手術はいわゆる根治手術(根治手術=手術をしてしまえばその後は何も問題はなく、先天性心疾患を持たない人と全く同様の生活を送れ寿命も同じ、従って経過観察はいらない)ではなく、成人となっても子どもの時とは異なる多くの解決すべき問題がおこり、経過観察を続けなければならないことがわかってきました。 これらの問題の中には、単に寿命がいつまでかということだけではなく、普通に妊娠、出産は可能かどうか、患者自身の子供に遺伝するか、どんな仕事につけるか、心臓の再手術は必要か、心臓カテーテルによる治療は手術の代用となるのか、心臓以外の手術は安全に出来るのか、突然死の可能性はあるか、成人では不整脈の合併が非常に多いがその治療は出来るか、生命保険に入ることが可能か、精神的に抑欝傾向が強く、パニック症候群も多いが、社会的に適応していけるか、患者自身が自分の病気をどう認識するか、未手術例でのチアノーゼによる全身の合併症にどう対処するか、いわゆる成人病の頻度は高いのか、喫煙、飲酒はかまわないか、など様々な問題が含まれます。すべての先天性心疾患患者にこれらの問題が生じる訳ではありませんが、軽症の疾患でも注意すべきことはあります。
従って、一部の疾患(動脈管開存の離断術)を除くと小児期の心疾患は一生涯定期的な心臓の経過観察が必要となります。経過観察という意味は、心臓に対する積極的な治療ということのみではなく、将来起こりうる多くの問題を可能な限り未然に防ぐことであり、精神的、社会的サポート、定期的な健康診断的な意味も含むものと考えられます。欧米では十分とはいえませんが、こういった成人先天性心疾患患者をフォローするセンターが1970-80年代から出来てきています。いくつかの病院では他の関連各科ー精神科、産婦人科などーと密接に連絡し、成人となった先天性心疾患の診療、経過観察を開始しています。日本でも、平成11年に成人先天性心疾患学会が開かれ、毎年継続して開催されるようになりましたし、成人先天性心疾患診療ガイドラインが出来ました。しかし、日本ではいまだこういった患者さんをフォローする病院は少ないのが現状です。そこで、日本成人先天性心疾患学会の予定、情報、関連学会情報の提供、成人先天性心疾患に関するup to dateな話題を中心に情報、意見交換のできる場所としてこのホ-ムペ-ジを企画しております。