司会のことば

神奈川県立こども医療センター副院長(循環器科) 康井制洋

 人の一生は受胎,出生,成長,成熟,老化,終末を辿ります.疾病のあるなしによらず生き物の決められたルールです.
 医療の進歩はかつてない時代を迎え,小児医療は胎児医療へと発展し,胎児から新生児への過程ですでに治療の方向性が決まっている場合も少なくありません.同時に,小児期に治癒しない疾病や成人期への継続的医療が必要な状況も当然ながら増加し,小児期に限定した医療のみでは十分にその目的を達成できない時代となりました.国の行政は,この医療の進歩と方向性を受け入れ,日本で最初に設立された小児の専門医療施設である国立小児病院を廃院とし,新たに「成育医療」の概念のもと,国立成育医療センターを設立しました.これは従来の小児を専門とした医療施設では現在の社会や時代の要求に答えられない時代を迎えていることを端的に明示したきわめて重要な方向性の表明と思われます.
 振り返って,高度成長期を終えた日本社会は,経済基盤や医療行政をふくむ社会機構を大きく変えなければならない時代となり,各都道府県立や公的小児医療専門施設も機構を見直すべき時期にきていると言えます.時代の変遷により,いくつかの小児病院は周産期医療や救急診療機能を強化してきました.今後に積み残された大きな課題は,「成人年齢を迎えた患者さんへの医療」への取り組みと言っても過言ではないように思われます.
 継続医療のための機構整備には医療の診療現場で取り組める問題と,行政レベルで取り組まなければ解決できない問題とがあります.国に比べて経済基盤の脆弱な地方自治体立病院での医療施設の整備には,広く国民の理解と支援の上に成り立たなければ困難です.また,「国立成育医療センター」のような重装備型医療機構にすべての小児専門施設が改組できるかどうかには大きな疑問もあります.病院の設備,人員など基本的機能を抜本的にに拡充しなければならないからです.
 今私たちは,現在の小児病院で何ができるか,どのように役割分担を担うか,目指すべき理想と厳しい現実のなかで,国立成育医療センターとは異なったあらたな道を模索しなければならないように思われます.
 神奈川県立こども医療センターの20歳以上の患者さんは,2002年の実数で約1,700名(産科,職員を除く)おられます.毎月の受診数は約350名です.当センターでは2002年10〜12月の 3 カ月間,20歳を過ぎた外来患者さんにアンケート調査を行い,たくさんのご回答をいただきました.成人年齢に達した患者さんへの対応が不十分な当センターとしては,この調査を踏まえて新たな道を模索中です.
 調査によってまとめられた当面の方向性は以下のごとくです.

  1. 神奈川県立こども医療センターで今後も引き続いて診療を継続しなければならない患者さんは現在通院中の患者さんの約半数と思われます.
  2. この半数を除く成人年齢に達した患者さんは原則として地域や成人の医療施設に紹介する.
  3. 紹介にあたっては遅くとも18歳までにはその旨を家族に伝え,家族とともに転院の準備をする.
  4. 医療者は遅くとも小学校高学年くらいから患者本人と向き合うように心がけ,疾病の説明や服薬の説明をする.
  5. 中学生以上の患者さんの自立を促す目的で可能な限り保護者なしの受診を進めていく.
  6. 成人の外来や入院患者についてプライバシーが守られる設備や言動に配慮する.
  7. 疾病の遺伝や妊娠・出産への不安がある場合には妊娠前外来や遺伝カウンセリングの積極的利用を呼びかける.
  8. 今後あらたな病院の改築に向けて継続医療が可能なように病棟機能の改善などを検討する(現在建築中).
  9. 医療機関としての役割分担を踏まえた診療機構の抜本的な見直しを検討する.

 本日の公開シンポジウムが,問題の提起と同時に,私たちが抱える大きな課題を患者さんや家族の皆様と医療者とで共有し,あらたな道をひり開く魁(さきがけ)として役立つことを願っています.

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