|
千葉県循環器病センター小児科 丹羽公一郎
先天性心疾患(CHD)は,新生児の約 1%に発生するとされています.つまり,現在日本では年間 1万2,000人あまりのCHDが生まれ,そのうち90%近くの
1 万人以上が内科,心臓外科の発達のおかげで,成人になると予想されています.また,日本では,すでに50万人以上の成人CHDがいますが,今後,5%の割合でその人数が増加するとされています1,2).一方,CHDによる死亡は,この30年間に約1/3に減少しましたが,今では,死亡のうちの20%は成人CHDが占めています3).そして,1960年代からCHDの手術を行っていた施設では,外来CHD総数の50%は,成人です.つまり,CHDは,すでに,成人循環器疾患の
1 領域と考えられるようになりました.しかし,成人CHDの多くは,循環器小児科医,心臓外科医により小児期から継続して観察をされていることと,成人CHDという分野は,標榜科として認められていないため,循環器科医のこの分野への関心は低い傾向にあります.しかし,成人CHD数の増加,加齢は今後も確実に進むため,近い将来,循環器科学の中の大きな分野となることは疑いがないと考えられます4).
複雑なCHDでも小児期早期に手術を比較的安全に行えるようになったため,手術をしていないチアノーゼ型CHDの割合は減少しています.しかし,すでに成人となった人の中にはチアノーゼ型CHDは少なくありません.このような人たちは,チアノーゼによる系統的多臓器異常(赤血球増加,腎臓の異常,出血傾向,痛風,頭痛,めまいなどの血液が濃いための症状など)を起こしてきますので,これに対する予防治療を必要とします.また,最近では,チアノーゼ型CHDなどの複雑CHD術後や特異的な手術後の成人も増加しています.70歳,80歳といった,CHDの術後生涯歴の全貌は明らかではありませんが,人工心肺を用いた手術が1950年代前半に開始されたため,疾患によっては,40,50歳代までにどのような生活を送れているかということが,明らかになりつつあります.CHD手術の多くは根治手術(治療が不要で,経過観察も必要ない)ではありません4).加齢に伴い,心機能の悪化,不整脈,突然死,再手術等の問題が起こることがありますし,高血圧,冠動脈硬化等の生活習慣病により病気が修飾されることもあります.心臓に細菌の感染を起こす,感染性心内膜炎も成人CHDでは,小児よりも頻度が高いとされています.心臓の問題以外にも,就業,医療保険,生命保険,心理的社会的問題,結婚,出産,喫煙,飲酒,遺伝など小児とは違った成人特有の問題を抱えるようになります.これらの問題の予防,治療,そして,成人CHDの人たちが,社会的に自立して社会的貢献が出来るようにするためにも,大部分のCHDの人は,成人後も定期的な経過観察,加療を必要とします5).
CHDの人たちは,成人後,誰に経過観察をしてもらえばよいのか.今後も,小児科医に継続して診てもらえるのか,あるいは見てもらうことが良いのか,という,現実的な切実な問題があります.日本では,成人CHDの人は成人疾患の訓練を受けていない循環器小児科医が診ていることが多いのですが,逆に,CHDの診療の訓練を受けていない循環器科医,内科系の訓練のない心臓血管外科医が経過観察を行っている場合も少なくありません.あるいは,経過観察が必要にもかかわらず,小児科医の手を放れる時期になると,その後の経過観察を行う施設がないため,あるいは自分の病気を十分に理解できないため(両親から離れ,自分の病気に自分で責任を持たなければならない年齢になると),ドロップアウトしている人も少なくないと思われます.一方,欧米では,循環器科医,循環器小児科医,心臓血管外科医,内科医,専門看護婦を含むチーム医療により成人CHDに対応している施設が増加しています.同時に,循環器科研修医,循環器小児科研修医に対する成人CHDに関する教育システムが動き始めています.
日本では,残念ながら,循環器科医の先天性心疾患に関する興味は非常に低いのが現状であり,循環器小児科医も含めて成人先天性心疾患に関する教育システムは行われていません.
今回は,成人CHDの診療体制,チアノーゼ型CHDの問題点,代表的CHDの長期予後,妊娠,社会的自立などに焦点を当ててお話をしたいと思います.
文献:
| 1) |
丹羽公一郎,立野 滋.欧米における成人先天性心疾患診療施設の運営実態と今後の日本の方向性.J Cardiol 2002; 39: 227 |
| 2) |
Warnes C, Liberthson R, Danielson GK, et al. Task force 1: the changing profile
of congenital heart disease in adult life. J Am Coll Cardiol 2001; 37: 1170 |
| 3) |
Terai M, Niwa K, Nakazawa M, et al. Mortality from congenital cardiovascular
malformations in Japan, 1968 through 1997. Circ J 2002; 66: 484 |
| 4) |
Perloff JK, Warnes C. Challenges posed by adults with repaired congenital
heart disease. Circulation 2001: 103: 2637 |
| 5) |
Gersony WM, Hayes CJ, Driscoll DJ, et al. Second natural history study of
congenital heart defects: quality of life of patients with aortic stenosis, pulmonary
stenosis, or ventricular septal defect. Circulation 1993; 87: (Suppl I): 52 |
もどる
|