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大動脈弁閉鎖不全症に対するポートアクセス法

ご質問

33歳 女性

21才の時に初めて大動脈弁閉鎖不全症と診断されました。最近になり、胸痛等の症状が出始め、これから先の治療法を決めるために今後,出産するのかしないのかを決めてくれと言われました。現在2才前の子供がいるため、手術期間はなるべく短くしたいと思い、調べていましたらポートアクセス法の事を知りました。できれば、この方法で手術を受けたいと思っていますが、大動脈弁の場合でも可能なのでしょうか?



お答え

一般に心臓手術は人工心肺装置を補助手段にして行われますが心臓と肺の肩代わりをするためには心臓に還ってくる血液を一旦人工心肺側に引いてこなければなりません。そのために体と装置をつなぐ何本かのチューブ(管)が必要になります。大まかに言って送血が1本,脱血が1-2本必要です。通常はこれらを全部同じ手術創から心臓に挿入するので安全に手術を行うためにはある程度の創の大きさが必要となる訳です。一方Port Access法でも人工心肺装置を使うことは同じですが送血管を大腿動脈(足の付け根のところ),脱血管を大腿静脈または頚部の静脈に入れて体外循環を確立します.さらに反対側の足の付け根から風船付きカテーテルをいれて大動脈を遮断し,心臓を完全に止めます.このようにすると管が邪魔にならないので主として乳腺下や正中の小さな傷から心臓手術をする事が出来ます.しかし対象となる疾患は現在のところ心房中隔欠損症や僧帽弁手術など心房(血液をためる部屋)の中で行う手術に限られています。ご質問の大動脈弁閉鎖不全症の場合は上行大動脈を開けて行う手術ですのでいわゆるPort access法の対象にはならないと考えられます。手術創を小さくして社会復帰を早くするという目的では部分胸骨切開法(MICS)というのがあります。しかしこれも熟達した施設,外科医が必要ですし入院期間はそれほど短くはなりません。

もう一つ考えなければならない問題があります。主治医がお尋ねの通り,この先妊娠を望むかどうかということです。もし弁置換(弁を交換する手術)が必要になった場合,どのような代替弁を使うかは大きな問題です。機械弁にした場合,血栓予防のためにワーファリンという薬を飲み続けなければならず,妊娠出産は慎重な管理が必要となり危険を伴います。そのため妊娠を強く望む方の場合は厳密な血栓予防の必要のない生体弁を使うか,または手術は難しくなりますが自分の肺動脈弁を使うRoss手術をお勧めすることになるでしょう。現在どれくらい心機能の余裕があるのかご質問からは推測しかねますが大動脈弁閉鎖不全症は病期が進行するまで比較的自覚症状が出にくい疾患なので胸痛などがあるとすれば早めの手術が良いと考えられます。これらの点について主治医とよくご相談いただきたいと思います。

慶応大学のホームページもご参考にして下さい(心房中隔欠損症、僧帽弁疾患が主な対象となっています)。
慶応義塾大学病医院心臓血管外科 > ポートアクセス・システムを用いた低侵襲心臓外科手術について
文責:松尾 浩三