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僧帽弁閉鎖不全症の治療と妊娠

ご質問

29歳 女性

はじめまして。29歳女性です。学生時代に僧帽弁狭搾症と言われましたが、特に症状もなくこれまで生活してきました。最近で、心雑音を指摘され、胸写で心拡大、心エコーで僧帽弁閉鎖不全症の2~3度と診断されました。現在何も治療することはないのですが、数年後には手術をしないといけないと言われました。労作時に呼吸困難が出る程度で普通に仕事もし生活しています。今後、妊娠出産が可能なのかとそれに伴うリスクを教えてください。



お答え

質問者の方の医療情報が少ないので推測になりますが、後天性の僧帽弁弁膜症の患者さんと思われます。当研究会が扱うテーマ(成人期に達した先天性心疾患や川崎病)から離れることになりますが、一般的な問題点・注意点を述べたいと思います。

僧帽弁とは、左心房(肺で酸素化された血液を受け取る部屋)と左心室(酸素化された血液を全身の臓器に送り出す部屋)の間にある弁のことです。僧帽弁閉鎖不全(あるいは逆流)の原因は、僧帽弁逸脱症やリウマチ熱がほとんどです。検査所見や自覚症状の状態から判断すると、既に中等度以上の僧帽弁逆流が存在し、それは数年前より進行していることになります。いずれなんらかの治療が必要になる可能性が高いです。重度の僧帽弁逆流では、逆流した血液が肺に負担をかけて呼吸困難となります。また、左心房や左心室に大きな負担がかかると、不整脈や心機能の低下につながります。時期を逃さず、病状に応じた薬物治療や外科手術を行うことが必要です。また、抜歯などの外科的処置や分娩の際は、血液中に入った細菌によって心臓と全身の感染症(感染性心内膜炎)をおこす危険性があるので、抗生物質を使う必要があります。
僧帽弁逆流の患者さんの妊娠についてですが、妊娠前の心機能が良好で、自覚症状がごく軽度にとどまれば、妊娠・分娩は充分可能と思われます。質問者の方は既に中等度以上の僧帽弁逆流があるので、妊娠中―後期や分娩後は、不整脈や心不全が悪化する可能性があります。妊娠すると循環血液量が増加するため、不整脈や心不全は更に悪化しやすくなります。妊娠前にあらかじめ弁置換術を行うと心不全を生じる可能性は低くなりますが、生体弁を用いた場合、妊娠の経過により弁の劣化が加速するという報告があり、出産後も、充分に観察する必要があります。また、機械弁で置換した場合は、妊娠中の凝固能の亢進のため、弁に血栓が生じやすくなりますので、抗凝固療法に細心の注意が求められます。また、抗凝固薬として、ワーファリンという薬剤を用いますが、妊娠早期には、胎児に奇形を生じることがあり、それをさけるための妊娠の管理はかなり難しいものです。安全なお産を目指すには、患者さんの生活環境や生活設計に沿った治療方針をたてて、計画的に妊娠し、総合病院などで各科・各部門協力の下に分娩を管理するのが理想です。家族のサポートも不可欠です。担当医や、産科医、ご家族などと、充分に話し合うことをおすすめします。
文責:川副 泰隆