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川崎病と妊娠出産

ご質問

26歳 女性

川崎病患者本人です。
2歳の時に発病し,現在は左冠動脈瘤,右冠動脈が一度切れモヤモヤの毛細血管が幹につながり血を運んでおり,弁の動きが悪く少し逆流があるという後遺症が残り,4年に1度の心カテ検査で経過を確認するのみの状態です。 いたって私自身は元気です。今年で27歳になります。
24歳の時に結婚をし,今年心カテ検査を受け,いざ妊娠を考えました。 もちろん医師にも相談しておりますが,今まで後遺症が残って妊娠出産したという事例が殆どなく,病院側も困惑しており,通院病院の勧めもあり,他の病院でインフォームドコンセントを受けてきました。 実際そこでも後遺症がない川崎病患者の妊娠出産は事例として残っているのですが, やはり後遺症が残っている患者での妊娠出産は事例がなく,出産は可能だが,バイパス手術を受けてからの方がよりよいと言われました。 妊娠出産は母体にとって負担のかかることで血液もかなり増倍し,白血球も増える。そうなると血が固まりやすくなり,健常者でも血栓ができやすい状態になるとのことでした。手術する場合,バイパス手術を2箇所,弁も悪いので合計3箇所しなければなりません。その場合完全に胸を開かないと出来ないとのことでした。入院には1ヶ月,仕事も抱えており休むのも少し戸惑うところです。また,年齢のこともあり,病気を抱えているので早めに体力のあるうちに出産したいのです。この先伸びれば,もっと体への負担が増えるのではという不安もあります。
現在の主治医はやはり責任もあり,妊娠をするなら手術をしてからにしてほしいと言うのです。私はまだ体に傷を付けたくもなく,医療技術の進歩を少し待ちたいという気もあります。1箇所の手術であれば3箇所ばかり小さな穴を開ければ手術ができたりすると聞きました。どうしたものなのでしょうか? 1人でも子供が欲しく。このまま手術することなく妊娠をしたいと考えています。
何とか主治医にわかってもらえないものでしょうか? リスクを負うことはわかっていますが。何か事例はありませんでしょうか? 医師の気持ちもわかります。私も万一授かったのであれば,これからの命と,今有る命を失いたくはありません。ハイリスク分娩でも取扱ってくれる病院があるのでしょうか?
ぶしつけで大変申し訳ありません。私自身どこを頼っていいのかわからず,すがる気持ちでここに辿り着きました。
何か道が開ければと思っております。よろしくお願いします。



お答え

このまま子どもを産みたい気持ちと安全性を大切にする医師の側の判断との間で、悩まれている状況で、心労の多いことと存じます。特に、現在、症状を、認めていないために、このままでも、という気持ちが強いのかと、推測されます。さて、川崎病の冠動脈合併症を伴った方の妊娠は、すでに50人以上の報告がなされています。母体死亡は、ありませんが、流産などは多く、また、妊娠中の心筋梗塞発生を1人に認めています。血液が固まりやすくなること(冠動脈瘤がつまり心筋梗塞を起こします)を防ぐために、アスピリンを中心とした種々の薬剤の投与が行われます。
冠動脈閉塞(心筋梗塞)を起こした後の人も何人か妊娠出産に成功していますが、すべて冠動脈手術後です。以上の様な事実が、現在わかっていることです。もし、心筋梗塞を起こしますと、冠動脈閉塞部位を開通する必要があり、緊急カテーテルによる治療が必要です。治療が間に合わない場合は、心臓のかなりの部分の動きがなくなりますので、心不全を起こします。また、不整脈を併発することも少なくありません。妊娠中に起こった場合は、カテーテル時の胎児の被爆、心不全の場合の、胎盤血流の低下(流産の原因)等も考えなければなりません。さらに、出産後に、心不全が持続しますので、育児(これも非常に大切です)を、どなたかに頼まなければならなくなります。もちろん、心筋梗塞を起こすことが無ければ、薬剤の投与は必要ですが、一般の人の妊娠と同じ程度の経過をとります。ただ、無痛分娩は、必要になります。従って、妊娠中に心筋梗塞の起こる可能性が、どのくらいあるかという点の判断が、非常に大切です。右冠動脈の閉塞後に発達した血管が、どの程度発育しているか、左冠動脈の狭窄(冠動脈の狭さ)がどの程度か、さらに、房室弁の逆流の程度がどの程度か、現在の心機能がどの程度か等が、判断の材料になります。ただ、右冠動脈の閉塞の場合は、心筋の損傷範囲が狭いことが多いので、特に、左冠動脈瘤の狭窄(狭い部分)の程度によります。右冠動脈閉塞は、左冠動脈閉塞よりもかなり条件は良いと考えられます。
冠動脈バイパスが可能であれば、手術後の方が、妊娠が安全なことは、誰でも同意できると思います。しかし、右冠動脈の閉塞後に発達した血管が非常に良ければ、妊娠出産も可能と思います。また、左冠動脈瘤の狭窄がほとんど無い状況であれば、薬剤投与を行うことで、妊娠出産が可能な場合も少なくありません。また、狭窄が強ければ、カテーテルインターベンション(カテーテル治療)で、加療した後に、安全に妊娠出産を進めることが可能です。手術も含め、いずれの方法を取るにせよ、妊娠出産は可能ですが、どのように進めて行くかは、カテーテルなどの詳細な情報がないので、確実な判断は出来ません。
どの地域の、どの施設でも、川崎病の心筋梗塞後の出産の経験は殆ど無いので、どこでも、十分に注意しながら対応することになると思います。
文責:丹羽 公一郎