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心房中隔欠損症の治療適応・方法の選択について

ご質問

61歳 女性

61歳の母についての質問です。
先天性の心房中隔欠損症ですが、現在まで全く治療をうけずに生活してきました。3年前から動悸・息切れの自覚症状が出始めました。今年の5月からダイアート(60)1T,アルダクトンA1Tを服用するようになり、現在は息切れ等の症状も軽減されています。
今回初めて詳しく検査を受け、下記の結果となりました。
  • 心房中隔欠損症
  • カテーテル検査で肺体血流比3.76、左右シャント(短絡)率71.6%、平均肺動脈圧35mmHg、平均左房圧23mmHgで肺動脈血管抵抗はおそらく3以下、冠動脈は正常
  • 経食道エコーにて直径28mm×26mmの二次孔欠損を認める
  • 部分肺動脈還流異常症、左大静脈遺残の所見はなし
  • かなりの肺血流量、肺高血圧があり、リスクは高いが、Eisenmenger(アイゼンメンゲル)化はまだしていないようです
ここで2つの質問があります。
  1. 左右の血流量が 1:4 程度のため、術後ひどい場合ショック状態になる可能性があるといわれました。それでも手術はした方がよいのでしょうか?また、61歳の母に手術は耐えられるのでしょうか?
  2. 現在、カテーテル治療が普及してきていると聞いております。母の状態はカテーテル治療の対象にはなりませんか? 今かかっている病院ではカテーテル治療を行っていません。
どうぞ良いアドバイスをお願いいたします。



お答え

外科と内科よりそれぞれ回答をいただきました。
心房中隔欠損症の診断,治療は小児期から行われるようになっていますが成人期まで未治療のまま持ち越している方も少なくありません。その場合,一般に疲れやすいなどの自覚症状や不整脈を合併しやすくなる事から40歳以前の治療が勧められますが高齢という理由で手術適応が全くないということはありません。カテーテル検査の結果を踏まえて手術治療についてお話しします。

全身的な合併症や他の心奇形がないとして,手術前のデータで注目しなければならない事は1)左-右短絡率,2)肺血管抵抗や肺高血圧症の程度,3)不整脈合併の有無,4)左心室容積だと考えられます。肺血管抵抗が高く肺動脈圧が体血圧以上になり,左-右短絡より右-左短絡が増えてチアノーゼが見られるようになる状態をEisenmenger化したと言いますがこの場合は手術適応はありません。またEisenmenger化していなくても薬や酸素吸入に対して肺高血圧の改善が良くない場合,手術をしても自覚症状が改善しない場合があります。お母様の場合,肺体血流比が3.76あり相当肺に流れる血流が多い状態です。肺血管抵抗値が低く,肺高血圧症もそれほど重症では(平均肺動脈圧 35 mmHg)ないようですから欠損孔を閉じることによって肺と右心系(右心房,右心室)の負担は軽くなると予測できます。
ここで4)の問題がでてきます。大きな欠損孔のために相当量の血液が左心房から右心房に流れ込む状態が続いていると本来左心房からの血液を受け取る左心室がだんだん小さくなってきます(左心室容積減少)。正常に比べて左心室が相当小さくなっている状態で欠損孔を閉じた場合,急に左心室の負担が増加し(容量負荷),急性左心不全を起こす可能性があると言われています。平均左房圧は左心室の機能を反映しますが23 mmHgは相当高い値です。ただ現在は左心室の機能ばかりでなく右心系の負荷も影響していると考えられます。欠損孔閉鎖によって下降してくると考えられますが高いままだと左心室の負担がかなり強いことになり,手術中,人工心肺からの離脱を慎重にしなければいけないかもしれません。しかし術中や術後の治療を慎重に進めれば左心室機能も次第に順応してくると期待できますので危険な状態がずっと続くことはないでしょう。
非常に大きな欠損孔で肺血流も多いですから内科的治療は今後難しくなってきますし,不整脈を合併するようになると急激に症状が悪化すると考えられます。上に述べたようなリスクはありますが,現在のデータからは手術後は心臓と肺の負担が軽減される状態にあると判断されますので成人先天性心疾患の治療を多く行っている施設での手術を受けられることをお勧めします。

文責:松尾 浩三


まず,適応があればこのような自覚症状の患者は優先的に,transcatheter closureをする事になると考えます。しかし,「経食道エコーにて直径28mm×26mmの二次孔欠損を認める」とあり,相当大きいASDですので,心房中隔欠損孔周囲のrimが十分あるかが,カテーテル治療ができるかどうかの分かれ目になります。
もう一つ問題は,平均肺動脈圧35mmHg,平均左房圧23mmHgですが,心房中隔欠損のみで左房圧がこのように高くなることは,通常考えられません。僧帽弁狭窄症も考慮する必要があります。再検討が必要であると考えます。
すでに利尿剤が使われているようなので,術後もしばらく使うことになると思います。
手術の必要性はあると思いますし,このタイミングを逃すと次に状態が悪くなったときは本当に大変になってしまいますよね。あと気になるところは三尖弁や僧帽弁の閉鎖不全がどの程度あるかどうかです。
文責:越後 茂之