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疾患について

移行期医療 —小児期から成人期への円滑な橋渡し— 先天性心疾患

はじめに
 成人先天性心疾患(ACHD:Adult Congenital Heart Disease)患者数は年々増加しており、複雑先天性心疾患(CHD: Congenital Heart Disease)術後の成人患者も急増しています。我が国には、すでに45万人以上のACHD患者がいます (1)。ACHDの患者数は、日本では年間4—5%(約10,000人/年)の割合で増加すると推測されています。CHD手術の多くは、根治手術ではなく、生涯にわたる観察が必要である。このため、小児期から成人期へと進むに伴い患者本人が病気を理解し、成人向けの診療体制へ移行する必要があります(2)。このような移行過程は重要で、この行程がうまくいかないと継続的な診療から逸脱する可能性も高くなります。

I, ACHD患者の自立と専門医への移行の必要性
CHDの小児の多くが成人となることが可能となりましたが、中等症—複雑CHDは、成人後も定期的な経過観察が必要です(1)。CHD患者は、小児から成人へ移行する時期に、診療面でも、親から独立する事が必要です。しかし、複雑CHDであればあるほど、患者は小児期から両親への依存度が高く、自身の病気の病態や今後起こりうる合併症などに対する理解が低いことが多く、自分の心疾患の病名や手術内容を知らないことも少なくありません(3,4)。小児期は、両親が病気の説明を受け、治療法の決定も行っています。しかし、成人後は、患者本人自身が病気の内容を知り、不整脈、心不全などの合併症の予防や治療法を、また女性では、妊娠、出産の注意点を知ることが必要です。就業、婚姻などの社会的問題も重要で、この点でも自立が必要です。診療体制も、小児循環器科から循環器内科あるいはACHD専門施設への移行が望まれます(2)。こども病院での診療継続は、成人期医療の専門性の観点からも妥当ではありません。医療費の点でも、小児期は両親に依存し、各種制度による医療費の給付や減免も多いのですが、成人期は、身体障害者認定制度、指定難病に認定された場合以外は、医療給付のないことが多くなります。この様な観点から、ACHD患者にとって、成人への移行をどのように円滑に行うかという問題は、重要です。成人期以降もQOL(Quality of life)を保ち、罹病率や生命予後を改善させるには、小児循環器科からACHD専門施設への移行期間中もしくはそれ以前に、病名や病態の告知、手術歴を含む治療歴、今後起こり得る合併症と対策、日常生活の注意点などを、御本人に時間をかけて、説明する必要があります(3,4)。

II, 小児循環器科医はいつまで診るのか。循環器内科医が代わりうるか。誰が経過観察することがよいか?
 小児循環器科医は、①複雑CHDの解剖、血行動態を熟知している、②長い期間継続的に診療し、患者も診察を受けることに安心し、抵抗感がない、といった利点があります。反面、③成人の内科疾患やACHDの問題点(妊娠出産なども含む)になれていない、④患者に対して過保護の傾向がある、⑤小児向きの外来、病棟である、⑥小児循環器科医のマンパワーには限りがある、などの欠点もあります。ACHD患者は、成人なので、小児循環器科医が成人患者を診察し続けるには限界があります。一方、循環器内科医は、①成人期の疾患になれている、②専門医師数は、小児循環器科医より遙かに多い。一方で、③CHDに興味が薄く、④中等度以上の疾患の解剖、病態に不慣れです。これらの特徴をふまえて、思春期から成人期にかけての過程で小児循環器科医から、ACHDを専門とする医師あるいは循環器内科医に移行していくことが望まれます(5-7)。
 2012年に、ACHD診療を行う循環器内科施設グループ「循環器内科ACHDネットワーク」ができ、現在、35施設を超える循環器内科部門が、ACHD診療を開始しています(8)。日本循環器学会学術委員会にACHD部会、日本心臓病学会にもACHD設立準備委員会が設けられています。米国のAmerican Board of Internal Medicine (ABIM)は、ACHDを、内科の専門分野の一つと認め、2015年には、ACHDの専門医制度が発足しました(8)。このような動きを受けて今後は日本成人先天性心疾患学会を中心として、急速に、ACHD診療への循環器科医の参加と診療体制の確立が進むと予想されています。
 今後は、医師の専門背景が小児循環器科か循環器内科かを問わず、ACHDの専門研修を受けた医師が中心となり、ACHDの診療を行う事が期待されています(1,8,9)。

III, 各科専門医師や多職種専門職で構成されるチーム医療体制の必要性
 ACHD患者が抱える問題は多岐にわたります。この分野は、ACHDを専門に診る医師、看護師を中心として、循環器内科医、小児循環器科医、心臓血管外科医や各分野の内科専門医、外科専門医、産婦人科医、麻酔科医、精神科医、専門看護師、心理療法士、専門超音波技師などで構成される専門チームによる専門医療体制の確立が望まれます。

IV, 移行外来とはー小児循環器科医から、ACHD専門医に、どの時期、どの様な方法で移行していくか。
 循環器内科医へのスムースな移行は患者の成人期以降の通院拒否(ドロップアウト)をなくすためにも必要です。小児循環器科医から、ACHD専門医ないし循環器内科医に移行する場合、なれない病院や医師に初めてかかるため、患者は大きな不安を感じます。成人を対象とする医師は、患者本人を成人として扱うため、それまでの小児科医の対応と異なり冷たく感じられることが多くなります。循環器内科医は、診察室に両親が同伴し、両親が会話に介入することに違和感を感じますが、逆に小児循環器科医は、患者本人と直接話をすることになれていません。このような理由がないまぜになり、小児循環器科医からの移行の障害となることがあります(7)。
 移行診療の実施時期は患者の病状、年齢、成熟度、病気の理解度に左右されますが、中学に入学する12歳頃より、遅くとも15歳頃までには医師が患者本人へ病気の説明を開始することが望まれます(1)。そして高校を卒業して親元を離れて進学するか就職して独立する可能性のある18歳(もしくは20歳)までに、移行診療を終了するのが理想的です(1,10)。移行診療には、将来的な問題点、特に女性患者へは、妊娠や出産、避妊に関連した注意事項を含みます。思春期に小児循環器科医が診療を継続しながらACHD外来を紹介し、患者はACHDの専門医師(循環器内科医)と併診しながら、徐々に循環器内科への受診頻度を増やすことにより移行を進める移行外来という方法もあります(6,9)。欧米の一部施設では、この外来を小児循環器科と同じ病院内に設けている施設があります(10)。

おわりに
 ACHDの移行診療には、1)小児循環器科医か循環器内科医かの背景にかかわらず、ACHDの診療を専門とする医師を中心とした多科多職種で構成されるACHDのチーム専門診療施設を設立する、2)専門病院を中心とした病診連携を確立する、3)循環器内科やACHD診療専門施設への移行診療を進める、4) 自身の病気の理解と移行診療体制の充実などが必要です(11,12)。

引用文献

1. 丹 羽 公一郎, 他。循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010年度合同研究班報告)成人先天性心疾患診療ガイドライン(2011年改訂版)
http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2011_niwa_d.pdf
2. Niwa K, et al: Survey of specialized tertiary care facilities for adults with congenital heart disease. Int J Cardiol 96:211-216, 2004.
3. Niwa K. Adults with congenital heart disease transition. Curr Opin Pediatr 27: 576-580, 2015.
4. Moons P, et al: What do adult patients with congenital heart disease know about their disease, treatment, and prevention of complications? A call for structured patient education. Heart 86:74-80, 2001.
5. Hilderson D, et al: Attitude toward and current practice of transfer and transition of adolescents with congenital heart disease in the United States of America and Europe. Pediatr Cardiol 30:786-793, 2009.
6. Sable C, et al: Best practices in managing transition to adulthood for adolescents with congenital heart disease: the transition process and medical and psychosocial issues: a scientific statement from the American Heart Association. Circulation 123:1454-1485, 2011.
7. Ochiai R, et al: Opinions of physicians regarding problems and tasks involved in the medical care system for patients with adult congenital heart disease in Japan. Congenit Heart Dis 6: 359-365, 2011.
8. Niwa K: ACHD achievements in the Asia-Pacific region. Prog Pediatr
Cardiol 34: 57-60, 2012.
9. 丹羽公一郎。小児循環器の現状と将来。日児誌 118: 1435-1449, 2014.
10. Shirodaria CC, et al: Joint outpatient clinics for the adult with congenital heart disease at the district general hospital: an alternative model of care. Int J Cardiol 103:47-50, 2005.
11. 丹羽公一郎。循環器疾患の成人期へのトランジション。外来小児科 18: 291-295, 2015.
12. 丹羽公一郎。先天性心疾患。日医雑誌 10: 2116-2119, 2015.

文責:丹羽 公一郎